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The Cinema, Actually

あんまり映画の話はしません。

2017年1月旧作ベスト

映画

1. 『早すぎる、遅すぎる』1981/ストローブ=ユイレ/フランス,エジプト

Trop tôt/Trop tard / Too Early/Too Late

ストローブ=ユイレによる最初の非・劇映画。バスティーユ広場をぐるぐると回るオープニングシークエンスであっという間に心を鷲掴みにされる。下のスチルはもちろん『工場の出口』(1895)のオマージュであるが、ここでは、リュミエール兄弟が拾い得なかった、そこに生きる人々の話し声や些末な音を零すことなく拾い上げることに注力している。土地の風景とそこに根差す人々や動物を眼差し、そこに備わるあらゆる音に耳を傾けることを要求し続けるラジカルさ。フランスとエジプトにおける階級闘争共産主義のテクストと合わさって、まさしく「体験」としか形容しようのない無二のものを観客に与えてくれる。農民が共産主義革命を起こすには早すぎたとするならば、そこに言葉がもたらされるのは遅すぎた。

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2. 『召使』1963/ジョゼフ・ロージー/イギリス

The Servant

一枚絵で決まっているショットが多すぎてたくさんスチルを保存したけれども、泣く泣く一つに絞った。階段、影、鏡といったアイテムを駆使した画面設計は白眉。話はキム・ギヨン『下女』の女メイドが男の召使になったようなもので、精神的にジワジワと追いつめてからの主従関係の逆転ぶりは非常に見ごたえがある。そういえば『下女』も階段が忘れられない映画であった。

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3. 『群衆』1928/キング・ヴィダー/アメリカ

The Crowd

驚異的な俯瞰ショットの数々に驚かされるが、とりわけ、摩天楼を駆け上がるカメラが窓から侵入し、ゆっくりと主人公へとズームインしていくシークエンスには映画の素晴らしさが詰まっている。小市民の平凡な人生を通して消費社会を見つめる眼差しもある。都市描写にはジガ・ヴェルトフっぽさも見られる。

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4. 『無謀な瞬間』1949/マックス・オフュルス/アメリカ

The Reckless Moment

ハリウッド時代のオフュルスによる母ものノワール(!)流麗なカメラワークは健在で、屋内のシークエンスは扉の開閉のタイミングまでをワンカットで撮っている。画面の端に猫が映り込んだり、ランプが揺れたりするタイミングが神懸っており、細部の豊かさにも満ちている。繰り返し階段の昇降を見せて屋内外の構造をわかりやすく提示するのも巧い。

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5. 『リバティ・バランスを射った男』1962/ジョン・フォード/アメリカ

The Man Who Shot Liberty Valance

銃・暴力から、法の支配へと移りゆく過渡期の時代が要請する、秩序の象徴たるヒーロー、および、若干の虚構を含む伝説・神話。自身の生きざまと多分に重なる一時代を、自らの手で追いやるジョン・ウェインに心打たれる。めちゃくちゃでかいステーキが登場して、腹が減る映画でもある。

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6. 『戯夢人生』1993/ホウ・シャオシェン/台湾

The Puppetmaster

風に揺れる木々、吊り橋のロングショットの異様な美しさにやられる。画面の静謐さや淡々としたリー・ティエンルーの語りが印象的だが、空襲警報や花火といった怒号音が記憶を呼び覚ますような感覚も素晴らしい。『悲情城市』のような仰々しさもない。一人の人生と日本統治下の台湾史が交錯し、人形劇のごとく固定カメラで提示する、メタ的な構造の巧さも光る。

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7. 『ウイークエンド』1967/ジャン=リュック・ゴダ―ル/フランス,イタリア

Week-end

消費社会やモータリゼーションを皮肉る大渋滞を横移動で撮る超絶長回しが本当に素晴らしいのでそこだけでも見てほしい。機能不全に陥った車のクラクションだけ喧しく響き渡る混沌、そこから始まる週末、もとい終末地獄巡り。リヴェットのような楽しい秘密結社ノリもみられて、ある意味まっすぐなフランス映画ともいえる。ビジュアル面以上に音への拘りが感じられて、個人的に爆音で見たい作品である。

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8. 『SAFE』1995/トッド・ヘインズ/イギリス,アメリカ

[SAFE]

化学物質への過敏症に苦しむ人々、及び彼らのためのケア・コミュニティが中心の話だが、環境問題の「ブーム」が巻き起こった世紀末の空気感を丁寧に拾い上げつつ、彼らに寄り添わない突き放したスタイル。物理的な[セーフ・スペース]を追い求めた先に待ちうけるその帰結は非常に示唆的で21世紀を生きる我々も無視できないもの。トッド・ヘインズは一昨年亡くなったシャンタル・アケルマンからの影響を度々口にしているが、この作品の構図や照明にもそれが多く見受けられた。

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9. 『パサジェルカ』1963/アンジェイ・ムンク/ポーランド

Pasażerka / Passenger

事故死したムンクの未完のフィルムやスチルをもとに、仲間の手によってつなぎ合わせて作られた半ば伝説的な作品。未完であることに起因する物語のぶつ切れ感や語り口の奇妙さが、決してマイナスになることなく、寧ろ作品の魅力を高めている。ナチス収容所下の看守と囚人という極限的な非日常を共にした二人の女性をめぐる愛情を、深い人間心理への洞察をもって語られる。同性愛的な思慕が仄めかされつつも、それが相手にはエゴイスティックな服従欲としか捉えられないという痛烈なアイロニー

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10.『イレイザーヘッド』1977/デヴィッド・リンチ/アメリカ

Eraserhead

言わずと知れたリンチのデビュー作。即物的なホラー映画というよりは、家族制度や結婚制度に対するある種のシニカルさを具象化したような、ブラックで味わい深いホームコメディだった。

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……ごちゃごちゃと纏まりのない感想を書き連ねたものの、今月見た中で一番印象深くて、繰り返し見た映像作品は『亀井絵里ソロパート集(2003〜2010)』でした。最近は専らおべんきょのお供にしてます。おわり。